少し前にこのアルバムがリリースされて「TOYOMU」という名前をやたら見かけるようになりました。しかし紹介されているサイトはほとんど海外サイト。なんならインタビューまで載ってます。「彼のアルバムが海外で騒がれています!」みたいな日本語の記事はあっても彼に直接話しを聞いたような記事は無し。「なんやこれ?」と思ったのと単純に話が聞きたかったので彼にインタビューを申し出ました。
TOYOMU
1990年生まれ、京都在住のビートメイカー/プロデューサー。サンプリング/エレクトロニクスを主な手法とし、様々な楽曲を制作している。2016年3月に自身のbandcampにてリリースした音源、「印象III ; なんとなく、パブロ (imagining "The Life of Pablo")」はFACT Magazine、Complex、The FADERなどの海外で人気のメディアに取り上げられ一躍話題に。京都にて開催中のイベント/コレクティブ、Quantizer Kyotoの主宰。
というわけで以下が彼に聞いた話しです!
M.Hisataakaa: まずは自己紹介からお願いします。
TOYOMU: TOYOMUです。京都で音楽を作っています
TOYOMU: 今年入った時くらいに、「今年の抱負」みたいな感じでbandcampで12ヶ月連続で作品をリリースしようと思い立ち「どうせやるなら…」ってことで毎回実験的かつ賛否両論が起こるようなシリーズにしようとしたのがここに至るまでの大きなきっかけです。で、そのまま実験的なことをやっても誰も聞かないと思っていたので、みんなが知っているステージで誰もやったことが無いことをしようと思いました。1月は某野源、そして今回の3月分はちょうどカニエがいいタイミングでアルバムを中途半端に公開していたので乗っかるしかないと思ってやりました。しかしなんといっても大きい要因は#NoTIDALinJapan(※)ですが。
※Kanye West/Life of Pabloは2016年2月に発表されたものの定額制音楽ストリーミング・サービスの「TIDAL」での配信のみという限定的なリリース。この「TIDAL」が日本ではサービスを展開していなかったためしばらくはアルバムを聴けなかった。加えてアルバムは未完成であるとされていてカニエがおかしなことばっかり言うので話題になりました。
Kanye West/Life of Pablo(2016)
M.Hisataakaa: 「カニエのアルバムが日本で聴けない」ってとこにストレスはあった?
TOYOMU: ありました。単純に、僕はカニエの”Yeezus"(2013)以降の最近の動きがとても刺激を受けていたし、わりかし昔から作っている曲もかっこいいと思っていたので。いちファンとしてとても聞きたいという思いは強かったです。
Kanye West/Yeezus(2013)
M.Hisataakaa: どうやって作った?
TOYOMU: サンプリングソースはwhosampled.comから。歌詞はGeniusの情報を参考にして僕が勝手に解釈して作りました。サンプリングソースと歌詞は"The Life of Pablo”の公開後すぐ、ファンによってそのほとんどが上記のサイトに掲載されていたので。その情報を頼りに想像というか妄想でオルタナティヴverのアルバムを作りました。
M.Hisataakaa: これ本当に痛快だな。
M.Hisataakaa: whosampledの情報はかなり最初からたくさんのサンプリングソースが出てたの?
TOYOMU: 僕、かなり頻繁にwhosampledはチェックするんですが、おそらく三日以内にはほぼ出ていたのではないでしょうか?あと先行してsoundcloudに公開されていたやつは聴いていたのでそれらの曲はかなり再現度が高くなりました。なんか”FACT”は最終のバージョンとはちょっと違うそうですけど。
M.Hisataakaa: なるほど。連作の流れの中で今回のような非常にタイムリーなテーマで作品を仕上げた。ってことはかなり短い時間で作品を仕上げたと思うんだけど制作期間はどれくらい?
TOYOMU: 実質Ableton Liveで作業していた期間でいうと4-5日くらいです。3月入ったあたりからアイデアはずっと頭の中で練っていましたが。
M.Hisataakaa: そこのスピード感もすごいね。着手してから一週間もかけずに仕上げたってことでしょ?
TOYOMU: そうです。アイデアさえ決まってしまえば後は曲に落とし込むだけなので。デッドライン(自分で毎月出すって決めただけですが)が決まっているとそれに時間を割かざるを得なくなるので、否が応でも前へ進めないといけない!みたいな感覚で作っていたと思います。もちろん楽しかったんですが。
M.Hisataakaa: あと歌詞に関しては?母国語じゃないから「歌」とか「ラップ」もどうしても音で聴いちゃうでしょ?そこでボーカル的な表現を入れるか入れないかの判断はすごい難しかったんじゃないかな?と思ったんだけど。そこは迷わずtext to speech(※)に行き着いた?
※テキストを読み上げるソフト
TOYOMU: ここはアイデアを思い付いた時点でどうしようか考えました。でも前々から「ちゃんとしたラップ」ではないラップにも憧れていました。参考に挙げるとMadlibのサイドプロジェクトであるQuasimotoのような感じです。作り始めた当初、Quasimotoの2ndアルバム「The Further Adventures of Lord Quas」なんかのようなアルバムになるのではないだろうか、と少し予想していました。結果は、さらに思っても見ないような変な音の塊になったのではないでしょうか…。とにかく昔からストレンジなものが好きです。
M.Hisataakaa: なるほど。
M.Hisataakaa: もうカニエの本物の方("The Life of Pablo")はちゃんと聴いた?TIDAL以外のサービス、Apple Musicなんかでも聴けるようになったけど。
TOYOMU: まだ聴いてません。「ここだ!」と思うタイミングになれば聴きます。別に聴かないことに他意はありません。気分としか言いようがないのでアレですが…。でもそんな気持ちとは裏腹に「はよ聴きたい!!」みたいな気持ちもめっちゃあります。どう説明したらいいのか。
M.Hisataakaa: あ!まだ聴いてないんや!(笑)
TOYOMU: 聴いてません(笑)
M.Hisataakaa: 「答え合わせ」じゃないけどそこは気にならない?(笑)
TOYOMU: めちゃくちゃ気になりますね...!ただたまにinstagramやtwitterで不意に少し耳にする時とかに「あっ全然違う...」って思ったりします。(笑)
M.Hisataakaa: ははははは!そこおもしろいな。そういえばwhosampled.comやGeniusで得られたサンプリングソースと歌詞以外の「わからない部分」はどう判断して制作していったの?例えばキック一音とかでも。「カニエならこうするんじゃないか?」みたいな発想だったのかな?
TOYOMU: そういうトラックもありますし「僕がこうしたいんだ!」と思って意志を貫いているところもあります。例えば、4曲目の"有名税"(オリジナルの"The Life of Pablo”でのタイトルは”Famous")はSwizz Beatsが参加しているので彼特有のドラムパターンにしてみたりとか。…ただ、今discogsでクレジットを見たらSwizzはプロデュースじゃなくてVocalだったのでこの予想は見事に間違っているのですが…。(笑)
M.Hisataakaa: なるほど。めっちゃおもしろいな。
TOYOMU: 「Swizz told me let the beat rock」なんて言うから勘違いしちゃってました。
M.Hisataakaa: 「印象」だからな。(笑)
TOYOMU: そうですね、「なんとなく」ということで。
M.Hisataakaa: リリースしてからの反応もすごいおもしろいんだけどその辺はどう?
TOYOMU: 今まで生きて来た中では一番遠いところまで自分のアイデアとかジョークが届いているのでまずシンプルにそういうことに驚く反面、喜んでもいます
M.Hisataakaa: 具体的に一番最初に届いた「遠く」はどこ?
TOYOMU: 正直ほとんどアメリカなのでアレですが、ブラジルやイタリアあたりからメッセージとかが来た時にビックリしました。まあカニエはワールドフェイマスなので不思議では無いっちゃ無いんですが。
M.Hisataakaa: アメリカを中心に海外の人たちってのはこの作品のどの辺を面白がってる?
TOYOMU: 多く目にしたのは「better than Ye」みたいなところですね(笑)。オリジナルがあまりにも中途半端な形で公開されたので、僕のバージョンのコンセプトの明快さと曲に対するアイデアやジョークがうまくまとまって見えたのではないかと思ってます。 あとはやっぱり「聴いてないのに作った」というところと「ロボットがラップしてる!」みたいな衝撃ですかね。
M.Hisataakaa: インタビュー的なものだけじゃなく直接メッセージで来たりするの?そういう感想って。
M.Hisataakaa: 外人っぽいね。そういうダイレクトな反応は。
TOYOMU: 「collab bro」みたいなのも何通かありましたが、大半はみんな「ヤバかった!」「DOPEだね!」みたいのが言いたいみたいです。そこらへんは外人っぽいですね。
M.Hisataakaa: 日本で活動していることには何か触れられたりする?
TOYOMU: インタビューも何件か受けたんですが確かにそういう質問はありました。「普段のあなた自身の作品と比べてこの作品はどういう共通点/相違点がありますか?」的な。正直、自身の音楽ってものがこの作品の一部にも含まれてるのでどこかに境界線があるというシンプルなものではないのですが。
M.Hisataakaa: そういう質問する人はTOYOMUの以前の作品を聴いてるのかな?
TOYOMU: おそらく聴いていません。でもこれをきっかけに聴いてもらえるなら万々歳です。おそらく、今作との共通項もわかるはずです。
M.Hisataakaa: 聴いてないなら「カニエのアルバムを聴かずに作った日本人!」ってとこからしか話し始められないもんなー。
TOYOMU: そうですね。ただ、いくつかの海外メディアは「2013年に彼がbandcampで出したビートテープの~」みたいなことを書いてくれてる記事もあったので「理解しようとしてくれてるんだな~」と思って嬉しかったです
M.Hisataakaa: 丁寧な人も中には居たんだね。
TOYOMU: アメリカ人にしては確かにそう思います
M.Hisataakaa: 日本国内での反応はどう?
TOYOMU: 最初にSampling Loveのブログが取り上げていただいたので、そこでかなり聴いてもらいました。けど今回の海外でのバズに比べると種類が少し違うようにも感じます。カニエに対しての接し方、もしくは文脈を知らない人が多いというか。日本の人はあんまりカニエ・ウエストという人物の異常性に気づかずに、ただ変わったお騒がせちゃんとしてあきれてるだけなのではないかと不安になってきます。(笑)
M.Hisataakaa: 「カニエ観の違い」みたいなのは今大きいもんね。
TOYOMU: ですね。
M.Hisataakaa: ここは今一番埋まらないテーマのような気がするな。ここを掘り下げると大変だな。
TOYOMU: 僕も偉そうなことは言えないので。でもちょっとそういうことも垣間見えたというか、実感はありました。それが良いとか悪いとかって話ではないですが。
M.Hisataakaa: そこねー(笑)。これくらいにしとこう。俺も言いたいこと山ほどあるけど悪口書き倒すことになる。
TOYOMU: (笑)
M.Hisataakaa: 次作への展望は?
TOYOMU: まさかここまでいろんな海外の人に聞かれると思ってなかったので、少しレイドバックしたものを作ろうと思ってます。というか、毎月の企画なんで今月中にはまた出します。こんなんやってます、的なわりとシンプルなものを作ろうかと思ってます。
どうでしょう?おもしろいですね。
彼はよく店に来てくれるお客さんでありついつい長い時間引き止めては話し込んでしまう友人でもあります。「カニエのアルバムを聴かずに作った」というのはもちろん大きな驚きではあるんですが、彼が「ちゃんとビートを作れる人間」であるところもでかいわけです。アイデアだけあってもちゃんとそれをまとめる力が無いとそんなに多くの人には聴かれませんからね。彼の今後の作品も楽しみです。
TOYOMUの今後の予定:
5/29 (sun)
Quantizer vol.9 -Yesterday Once More Tour 2016 "YVEY" in Kyoto-
@West Harlem
TOYOMU主宰のイベントです。次回は福岡のクルー、YOM(Yesterday Once More)のツアーの一環としてお送りいたします。
参考に「印象III ; なんとなく、パブロ (imagining "The Life of Pablo")」のことを取り上げた海外メディアへのリンクを貼っておきますね。